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福岡地方裁判所 昭和32年(レ)85号 判決 1960年7月14日

控訴人 中園義三郎

被控訴人 古隈六助 外一名

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴人は、本案前の申立として「原判決を取り消す、本件仮執行宣言附支払命令に対する異議申立を却下する、訴訟費用は第一、二審とも被控訴人等の負担とする」との判決を、本案の申立として「原判決を取り消す、被控訴人等は控訴人に対し連帯して金三万円及びこれに対する昭和二八年九月一七日以降完済に至るまで月一割の割合による金員を支払え、訴訟費用は第一、二審とも被控訴人等の負担とする」との判決を求め、被控訴人古隈六助訴訟代理人、被控訴人大山義一は控訴棄却の判決を各求めた。

当事者双方の事実上の陳述は、原判決事実摘示と同一であるから、ここにこれを引用する。

証拠として、控訴人は甲第九乃至一一号証を提出し、証人坂下伊三郎の証言を援用すると述べ、被控訴人古隈六助訴訟代理人は、証人古隈文子、同大江ミツの各証言並びに被控訴人古隈六助本人尋問の結果を援用し、甲第九、第一〇、第一一号証の成立は否認する、同第一〇号、一一号証中被控訴人古隈六助名下の印影が被控訴人古隈六助のものであることは認めると述べ、被控訴人大山義一は、甲第一〇、第一一号証の成立を否認する、同号証中各被控訴人大山義一名下の印影が被控訴人大山義一のものであることは認めると述べたほか、当事者双方の証拠の提出援用、書証成立認否の関係は、この点に関する原判決の摘示と同じであるからこれを引用する。

理由

まず本件異議申立の適否の争について判断する。

本件記録によれば、本件訴訟は、控訴人を債権者、被控訴人等を債務者として、飯塚簡易裁判所昭和二八年(ロ)第八〇号督促手続事件について同年四月三〇日発せられ、同年五月二七日仮執行宣言が附せられた支払命令に対し、昭和三〇年二月一八日被控訴人等の申立てた異議申立に基づいて係属するに至つたものであることが認められる。

控訴人は「昭和二八年四月三〇日発せられた右支払命令は、同年五月一日、被控訴人等が裁判所から受けるべき書類の送達を受けるべき場所並びにその送達受取人として同簡易裁判所に届け出た、飯塚市大字飯塚明治町一五三〇番地訴外大江ミツに送達され、同月二六日控訴人は右支払命令に対し仮執行宣言附与の申立をなし、翌二七日仮執行宣言が附せられ、同年六月二日前記大江ミツに右仮執行宣言の附せられた支払命令正本は送達されたのであるから、昭和三〇年二月一八日になつてなされた被控訴人等の本件異議申立は、異議申立期間経過後の異議申立であつて不適法である。」と主張し、被控訴人等は「前記大江ミツに対し、送達受取を委任したこともないし、又その旨を飯塚簡易裁判所に届け出たこともないから、大江ミツ方に送達された前記支払命令の送達は無効である。従て異議申立期間は、その後被控訴人等が事実上支払命令正本を受け取つた昭和三〇年二月一五日から進行するから、本件異議申立は適法である。」と主張する。

本件記録によれば、飯塚簡易裁判所は、控訴人被控訴人等を各審尋の上、本件異議申立を適法と認めて口頭弁論期日を指定したことが認められる。その結果、異議の適法は確定され、訴訟係属の効力を生じたものである。そして訴訟係属後は、訴訟係属裁判所は、この簡易裁判所の異議の適法性の認定を左右することができないものと解すべきであるから、控訴人の本件異議申立が不適法であるとの主張は、理由がないものというべきである。

次に本案について判断する。

控訴人は、昭和二八年二月二〇日被控訴人等に対し、金三万円を弁済期同年一二月一六日、利息月一割と定めて貸渡し、被控訴人等は右消賃貸借上の債務について連帯してその責を負担することを約した旨主張するが、控訴人の全立証その他本件全証拠を以てしても右事実を認めるに足りない。甲第一号証、同二号証ノ一、二には控訴人主張の消費貸借契約が締結されたような記載内容が存し、右甲号各証中の被控訴人名下の印影が被控訴人等の印鑑によるものであることは、被控訴人等の認めるところであるが、原審証人大山芳野(第一乃至第四回)、同江野脇栄一、同江野脇ツタ代、原審並に当審証人古隈文子の各証言、及び原審並びに当審における被控訴人古隈六助本人尋問の結果に照すと、正に原審判決が摘示するとおりの経緯によつて前記甲号各証の文書上に被控訴人等の印影が作出されたことが認定できる。従つてこれ等の書証はいずれも被控訴人等の意思に基づき成立したものではないといわねばならないから、これを以つて控訴人の主張事実を認める証拠とはなし難い。

尤も、原審証人大山芳野の証言(第三、第四回)並びに原審における控訴人本人尋問の結果によれば、大山芳野は控訴人から、昭和二七年九月一九日頃金一万円を、昭和二八年二月二〇日頃金七千円を、各借り受けた事実が認められるが、被控訴人等が右大山芳野に右消費貸借締結についての代理権を授与した事実を認めるに足りる証拠はなく、その他大山芳野の債務について、被控訴人等がその責を負うべき法律関係の存在を認めるべき事実を証する証拠もないから、控訴人の被控訴人等に対する本訴請求はいずれも理由がない。

従つて控訴人の本訴請求を棄却した原判決は相当であるから被控訴人らに対する本件控訴を棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九五条、第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 安倍正三 諸富吉嗣 土川孝二)

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